抵当権の抹消登記
たかしな司法書士事務所の司法書士 諏訪部秀明です。
今回は、「抵当権の抹消」というものについて、注意点を述べるとともに、日ごろ私が感じていることを書かせていただきます。
ところで皆さんは、ご所有の不動産(土地、建物)についての「登記」といったら、どのようなケースを想定されますか?
- ご両親のいずれかが亡くなった場合などに行う「相続登記」
- マイホームを新築した場合の「所有権保存登記」や、購入した場合の「所有権移転登記」
- ご自身が住所を移転したり、結婚等で名前が変わった場合の「登記名義人の住所・氏名変更登記」
などがすぐに思い浮かぶところでしょうか。
では、「抵当権の抹消登記」はいかがでしょうか?
これも意外と多くの方が、経験されるものだと思います。
例えば、住宅ローンを組んでマイホームを建てた、あるいは購入した際に、融資をした金融機関等のために「抵当権の設定登記」をしますが、その返済が完了したときにするのが「抵当権の抹消登記」です。ある意味では、抵当権の抹消をして初めて「マイホーム」が実現できた、と言えるかもしれませんね。
この抵当権の抹消登記は、比較的簡単な手続きであるため、司法書士に依頼せずに、ご自身で申請書類を作成し、不動産所在地の法務局に提出(申請)する方もおられます。いずれの方法を採るかはともかく、次の二点にはご注意ください。すなわち、
- とにかく早めに抹消登記の申請をすべきだ・・・ということです。長年の住宅ローンの返済が終わったことや、金融機関がそれを認め、抵当権設定の際の「契約書」などを返還して来たので、ついつい安心してしまい、肝心な「抹消登記」を申請せずに、放置する方がおられますが、それは危険(NG)です。
貸付金の返済が終わったとき、金融機関は借り手(多くの場合、不動産所有者)に対して、抵当権抹消登記の申請のために必要な書類で、当該金融機関が保有していた書類を送ってきます。抵当権抹消登記の申請は、不動産所有者を「登記権利者」、金融機関等の貸し手を「登記義務者」とする「共同」申請なのですが、抹消登記には“関心が薄い”金融機関等は、登記権利者に必要書類を送って、後の手続きは“お任せします”というスタンスです。そのような中で金融機関等が送付してくる書類のうち、特に重要なのが、
・「弁済証書」や「抵当権の解除証書」といった抵当権が消滅しました・・ということを証明する文書
・抵当権抹消登記の申請を委任します‥という趣旨の「委任状」
・また、抵当権者であったことを証明する「登記済証」又は「登記識別情報通知」があります。
そこで、受け取った皆さんが登記申請をせずに時間が経ってしまったような場合、これらの書類が紛失してしまっていることがあります。この場合、金融機関に対して再発行を求めることもありますが、それができずに別の方法によることもあります。詳細はケースバイケースなのでこことでは触れませんが、とにかく時間と労力、費用がかかります。
このようなことを防ぐためにも、とにかく抹消登記は早めに済ませておくことが肝要です。(余談ですが、皆さんがご自身の土地や建物を売却しようとする場合、抵当権の登記が残っていると、相手方から必ずその抹消を求められると思ってください。その時になって慌てて抹消しようとすると思わぬ手間暇、費用がかかることがあり、場合によっては売却ができない、・・ということにもなりかねません。)
- 次に実際の登記申請ですが、ご自身で申請書類を作成し、法務局に提出する場合(本人申請)と、司法書士に依頼して申請書の作成とその提出を代理してもらう場合があります。本人申請の場合に注意するべきは、抵当権設定時の抵当権者の表示(登記簿上の抵当権名義人)と、抹消申請する際の抵当権者の表示が異なる場合です。これは長い間に金融機関の合併や、社名の変更(商号変更)があったような場合に生じます。率直に言って、このような場合には法務局の窓口で相談するか、本人申請ではなく、司法書士に任せることをお勧めします。
以上の二点がポイントだと思いますが、最後に私が常日頃から、この「抵当権抹消登記の申請手続き」に関して思っているところを書きます。
それは、「金融機関側のサービス精神」に関することです。
はっきり言って金融機関側は「抵当権の抹消」には無関心です。それは、抵当権の設定登記の際とは違い、金融機関側にはメリットが少ないからです。そのため、抹消登記をすることでメリットをもつ借り手側に前述の必要書類を交付するだけで、後のことは任せます・・といったスタンスです。貸すときは一生懸命だが、返済された後の手続きには無関心だということです。
おそらく皆さんが、ご自身で抹消手続きを進めるとき(本人申請するとき)に、それを感じるのではないでしょうか。(抹消登記に慣れてしまっていて、手数料や報酬がもらえる司法書士は「ああ、そんなもんか」といって割り切っていますが)
特に金融機関から送ってくる「委任状」に、対象となる不動産の表示の記載がなく、皆さんの側で記載する必要があるときとか(これって書き損じあるとやっかいなので、結構神経を使います)、さらには抵当権者の表示に違いがある場合(前述の合併、商号変更がある場合)に、その名称の変遷や、必要書類についての説明がないことがあります。(金融機関等が勝手に“合併”をしたり、“商号変更”をしたりしておきながらそのことの説明がないために、皆さんは、抵当権の名義人の名称が変わっていることに戸惑いを感じることになりましょう。)
長い間、住宅ローンなどの返済に努め、この間、顧客であった皆さんに対して、ローン完済時の手続きについては余りにもサービス精神に欠けていると思うのは、私だけでしょうか?
今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。